新進気鋭の映像制作チーム「Hurray!」× 花田十輝が送る等身大の“モノづくり”青春群像劇『数分間のエールを』。本作の学生向けティーチインイベントが6月4日(火)、専門学校 HAL東京内コクーンホールAにて開催され、クリエイターを目指す学生が現地、そして生配信で全国各地より参加した。

本作では「未来のクリエイターを応援したい」という思いから、HAL東京のCG・デザイン・アニメ4年制学科アニメーションコースの学生たちに、映画の登場人物である織重 夕が歌う楽曲のMV(ミュージックビデオ)の制作を依頼。MVの映像制作に関する一切は学生主導で行われ、関係者のフィードバックを受けつつ、今まさに制作中となっている。本イベントもまさに、そんな未来のクリエイターを応援する一環として実施されたものだ。

イベント前半の試写会では、スクリーンを食い入るように見つめる学生たちの姿が見られた。同じ“モノづくり”に関わるものとして感銘を受けた学生が多かったようだ。本レポートでは、後半のティーチインイベントを中心にご紹介する。

 

『数分間のエールを』あらすじ

「何かを作りたい。自分が作ったモノで誰かの心を動かしたい」

 

高校生の朝屋彼方は、MV(ミュージックビデオ)の制作に没頭していた。

 

ある夜、映像のモチーフを探して街を探索していた彼方は、

雨の中でストリートライブをする女性に出会い、その歌に衝撃を受ける。

 

「この歌のMVを作りたい、自分が待っていたのはこの曲だ」

その歌声と、感情をぶつけながら歌い上げる姿に心が突き動かされた。

 

そして翌日、彼方は教壇に立った新任教師の姿を見て驚愕する。

そこにいた織重夕は前夜、彼方の心を突き動かしたミュージシャンだった。

 

モノづくりを始め、その楽しさを糧に次に進む彼方と

モノづくりを諦め、その苦しさから別の道に歩き出した夕。

 

二人の作った作品は、それぞれに何をもたらすのだろうか。

 

学生たちの大きな拍手に迎えられて、ぽぷりか監督、おはじき副監督、中川萠美役の和泉風花さんが登壇。当日の進行は秋山洸飛プロデューサー(バンダイナムコフィルムワークス)が務めた。

 

ぽぷりか監督によると、この日、試写会で放映されたものは半分程度が未完成のもので、満足の行く映像に仕上がったのはイベントの2日前のことだという。「上映が開始されたら、もう一度観に来てほしい」と自信たっぷりの表情で学生たちに呼びかけると、和泉さんが「あの完成度で未完成だったなんてビックリしました!」と驚きを隠せない様子で映像を振り返った。

 

 

ぽぷりか監督・おはじき副監督が所属する「Hurray!」はアーティストのMVや、アニメーションのED映像の制作を主に手掛ける映像制作チームだ。主人公にMV制作に情熱を注ぐ少年・朝屋彼方(あさやかなた)を設定した理由を質問されると、ぽぷりか監督は映画制作の機会をもらえることは誰にでもあることではないと前置きをしつつ「次がないなら、この一回でいろんなモノを作っている人に向けて“あなたがしていることはすごい良いことなんだよ”と伝えたかったんです。今の時代、モノづくりは儲かるものではない。それでも自分の意志でやりたいと思って、しんどいことも辞めたいことがあっても続けていることは良いことなんだと。自分自身そのように生きてきたから、自分のことを話したほうが伝わると考えてMV制作を主軸に制作しました」と真摯な思いを打ち明けた。おはじき副監督も同じ思いだったようで、「チーム名のHurray!(フレイ)は応援の“フレーフレー”からきているのですが、モノづくりをしている人を応援できる内容にするならこれしかないなと」と言葉をつなげた。

 

「Hurray!」の映像制作では、アフレコなどの音声収録が初めてということもあり、話題はオーディションの話に。4名のメインキャラクターに各100本ほど、合計400本のテープ音声が送られたことを明かし、おはじき副監督が「ぽぷりかがそのなかでも「中川萠美は和泉さんしかいない!」と言っていたんですよ。テープの時点で完璧だったんです」と当時を振り返った。あまりに役柄にマッチしていたようで、アフレコでは監督から和泉さんに一切ディレクションがなかったほどだという。この場で初めて監督の思いを聞いた和泉さんは「役者冥利に尽きる言葉を……! ありがとうございます! 実はアフレコ時は音響監督さん経由でOKを頂いていたのですが、監督からの指示や要望が全くなくて少し不安でした(笑)」と笑顔で当時の様子を語った。

 

 

本イベントでは映像制作に関わる学生が多く参加していたため、本作の制作フローに言及する場面もあった。ぽぷりか監督によると、本作は以下の流れで制作されているそうだ。

 

1.テーマを脚本家の花田さんに伝えて、脚本制作を開始。

2.『Blender』のグリースペンシルを使って全編のVコンテを制作。

3.キャラクターモデルと背景のラフモデルを配置。動きをつけずにポーズだけを決める。

4.モーションキャプチャーで動きをつける。

5.モーションキャプチャーのデータを指示書としてアニメーターに渡し、表情や演技を加える。

6.『Blender』と『After Effects』を使ってコンポジットする。

 

特に特徴的なのは、モーションキャプチャーを専用スタジオではなく、おはじき副監督の自宅に機材を運び入れ、ぽぷりか監督・おはじき副監督が互いにアクター兼ディレクターとして全キャラクターを演じきったことだろう。大手プロダクションでは考えられない制作体制だが、少ない人員と機材でも完成度の高い作品が制作できるということは、モノづくりに携わるものとして励みになる話だ。そうしてアニメーションをつけた後もウォーターフォールせず、満足いかない箇所は何度もアニメーションやレイアウトを作り直した。完成の2ヵ月ほど前には大きな変更も発生したようだが、最後の一週間で怒涛の追い上げを見せたという。

 

 

イベントでは学生たちから登壇している3人に質問できるコーナーも用意された。ここでは、その一部をご紹介する。

 

——:作品では、歌の意図が伝わらない、モノづくりのどこにモチベーションをもつべきかわからないという悩みに焦点が当たっていましたが、制作陣の方々の実際のエピソードなのでしょうか。

 

ぽぷりか監督:織重 夕と朝屋彼方はそれぞれ半分ずつ自分が入っています。彼方のほうが少し強いかもしれません。外崎大輔は花田さんから降りてきた脚本に肉付けをしていった感じですね。

 

おはじき副監督:僕は外崎に共感する箇所が多かったので、キャラクター像を作っているときに「外崎はもっとこうだ!」と意見を出すこと が多かったです(笑)。外崎は制作陣の誰かではないのですが、それだけ思い入れが強いキャラクター。なので、生まれたときはこういったキャラクターじゃなかったですが、だんだんこうなっていったというのはありますね。

 

和泉風花:何かを楽しく作り続ける人ってすごく眩しいんですが、その気持ちを持ち得ない人もいて、そんな自分をコンプレックスに感じる人もいる。この作品には誰が見ても感情移入できるキャラクターが一人いるのは本当にすごいことですよね!

 

 

——:舞台を石川県金沢市にしたのにはなにか理由がありますか?

 

ぽぷりか監督:「Hurray!」の3人が同じ石川県の大学出身だったからですね。作品のテーマ的に、都会や田舎に思い入れがある主人公たちではないので、自分たちに縁があって、3人が共通してわかる場所にしよう、という考えです。

 

おはじき副監督:彼方たちが通っている高校は、きっと僕たちが通っていた大学の近くにあるんだろうな、など考えながら制作していると気持ちがノる感じはありました。

 

——:この作品のストーリーを作るうえで、悩んだところがあればお聞かせください。

 

ぽぷりか監督:僕はずっとMV制作をしていたので、無音で映像を作るのが苦手だと、今回初めて気づきました。「この尺で切る意味ってなんだっけ?」と何度もつまずいて。なので、サンプル曲を当てはめてVコンテを作るという工程を連続していきました。本作では15曲くらいの楽曲を使っていますが、ある意味それぞれのMVをつないだような作品になっています。

 

 

時間はあっという間にイベントのエンディングに。最後は登壇者からイベントに参加する学生たちに向けたエールが送られた。

 

和泉風花さん

「きっと皆さんは何かを目指されていて、こうなりたいという目標があると思います。私も少しだけ遠回りしたことがありましたが、その遠回りした経験自体が役に立ったこともありますし、無駄なことなんてなかったと実感しています。皆さんもこの先、自分が誰にも認められていないとか、何も価値がないって思う瞬間に出会う瞬間があるかもしれません。それでも、絶対誰かが見てくれています。楽しくクリエイトを続けて、いつかご一緒できたら嬉しいです。本日はありがとうございました!」

 

おはじき副監督

「SNSでバズって有名になった人もいると思いますが、正規ルートではないと思います。僕たちも大学で出会って、モノづくりに関わって10数年でようやく映画を作らせていただく機会に恵まれました。楽しいことも辛いこともあって、ようやくここに立っています。皆さんはこれから困難にぶち当たると思いますが、諦めずにモノづくりを続けていただくことが、僕たちがこの作品を作った意味になります。どうか頑張ってください!」

 

ぽぷりか監督

「この映画はモノづくりする人に向けた映画です。メインターゲットは10代です。なので皆さんのための映画だと思っています。今回、試写会を繰り返すなかでいろんな人がSNSで反応をしてくれていて、僕のことをフォローしていない人・接点のない人が、僕の卒業制作を挙げて「アレを作った人か!」といった反応をしてくれているのを見て、自分は誰かに見られているのだなと実感しました。皆さんも、自分がやってきた“正しい”“頑張りたい”と思えることを続けてほしいと思います。どこかでダメだったと思うこともあるかもしれませんが、それまで頑張ったことは決して無駄にはなりません。あのとき悔しい思いをした経験を活かして、太く・強くなれるための過去になるので、どうか、折れずにモノづくりを続けてもらえたら嬉しいです」

 

モノづくりの楽しさや苦しみを瑞々しく描いた『数分間のエールを』は、6月14日(金)より全国の劇場で放映開始される。SNSでは試写会に参加したクリエイターたちによる感想が投稿され、放映前から早くも注目を集めている本作。モノづくりに携わる人には、ぜひこの感動を味わってほしい。